京都メカニズム情報プラットフォーム
金融・法務の現場から
発展途上国側「ブラジル」の現場から

ブラジル三井住友銀行
地球環境部 部長 内田 肇

  1. 先進性・国際性における仮説

    ブラジル三井住友銀行は今年2008年で設立50年を迎える三井住友銀行のブラジル拠点です。開設以来、ブラジル進出日系企業、欧米系進出企業、そして地場大手企業の皆様に、商業銀行機能をベースとした銀行サービスを提供して参りました。その三井住友銀行のブラジル拠点が2005年より京都議定書の発効を契機に「排出権」を求める本邦の日本企業の皆様へ、ブラジルの「排出権」をご紹介する新しい業務を開始しました。

    そのきっかけは極めて単純でした。そもそも鉄鉱石や大豆、鶏肉などのブラジルから国外への輸出為替取引を追い駆けていた私(=当時は日系企業担当部長)は、ある時、「次なるブラジルの輸出産品は何になるだろうか?」という構想を練っていた際に「排出権」という単語に出会った次第です。その後、本業の日系企業取引推進の傍ら、「排出権」の勉強・研究を重ねた結論は「鉄鉱石や大豆と違って、排出権を日本に供給するには港も鉄道も保税倉庫もいらない。正しい知識と広範なネットワーク、豊富な玉があれば、人と紙で出来ている銀行でも日本に排出権を供給できるのではないか」そして「グローバルなネットワークを持つ銀行の情報力こそが我々の力になるのではないか」という仮説でした。

  2. 世界の舞台での受賞

    「ファイナンシャルタイムスアワード」カーボンファイナンス部門優秀賞受賞その後、地道な努力が続き、幾つもの壁にぶつかりました。そのうちのひとつがブラジルのCDM案件は中国やインドに比べて中規模で、売買にかかるコストを勘案すると単体ではワークし難いということです。そこで複数のCDMプロジェクトオーナーに対して、売買契約書の内容を統一化してもらうことで買い手側の法務費用を抑えられるのではないかという仮説を立てました。
    実際にやってみると二転三転する相手の要望に加えて、何種類もの書類の作成や国連や日本政府との遣り取りという膨大な手間と時間、労力が必要で、何度も放り投げだしたくなるようなこともありましたが、2006年の終わりには日本の大手電力会社へ10数件のCDMプロジェクトを取りまとめた上で150万トンの大口取引を纏めあげることが出来ました。
    この取引は、ブラジルから日本への初の百万トン単位の大口取引であるという点でブラジル国内の各方面から大変高い評価を頂戴しましたが、もうひとつの重要な点、つまり中小口の案件を複数取りまとめてパッケージ化し、それまで日の当り難かった中小規模の案件を国際マーケットにアクセスさせた、京都議定書の精神である途上国の持続可能な発展に寄与したという点について、2007年6月に英国フィナンシャルタイムスとIFC(国際金融公社)が主催する「フィナンシャルタイムスアワード」のカーボンファイナンス部門において高い評価を頂戴し、世界のベスト5ディールとしてノミネートされた後、最終的に優秀賞(Runner-up)を受賞しました。この部門での日本企業としての受賞は史上初めてでもありました。本当は壁にぶつかってそれをなんとか解消しようと七転八倒した上での苦肉の策であったのですが、それが新しいビジネスモデルとして世界の舞台で賞賛されたのは予想外のことで想像以上の喜びでした。

  3. 「地球環境部」発足

    このディールをきっかけとしてブラジル三井住友銀行では2007年1月、新たに専門部隊として「地球環境部」を設立。CDM要員も複数増員して「排出権ビジネス」に拍車をかけることとなりました。日本の銀行として「地球環境部」を作ったのは三井住友銀行が初めてのことと思います。
    またこのディールは2007年8月から日本のテレビで放映された三井住友銀広いブラジルを移動するには航空機をよく使います。行のTVコマーシャルにもテーマとして選ばれ放映されました。おそらく日本の皆様の目にも数多く触れたのではないでしょうか。
    さらに今では、ブラジル以外の中南米各国のCDM案件もフォローすべく中南米各国の主要な金融機関と連携を深め、各々の地場CDM案件の発掘に注力しています。
    2007年10月には日本側でも「環境ソリューション室」を本部に新設、文字通りグローバルベースで「排出権ビジネス」を推進していくことになりました。
    今ではブラジル・東京を始めとして世界各拠点のCDM担当者が東奔西走しつつ、日本企業の皆様へ1トンでも多くの「排出権」を供給するべく尽力している次第です。

  4. ブラジルの魅力

    おそらく多くの日本の皆様にとって、ブラジルは地球の反対側の遠い国だと思います。時差は12時間で昼夜ちょうど逆です。また英語もあまり通じません。国土は日本の約24倍もあって、アマゾンの熱帯雨林ジャングルからサンパウロのような大都市メトロポリスまで多種多様なお国柄で、小さな島国ニッポンとは様子が大分違います。一方、今年で日本人移民100周年を迎える日系コロニア100年の歴史が築き上げた日本人に対するブラジルの人々の尊敬と信頼は、我々日本人にとってかけがえのない財産です。

    時にパームツリーが初夏の風にそよぐブラジルの海岸を歩けば、突き抜けるような青い空、果てなく続く白い砂浜、どこからともなく流れて聞こえてくるラテン音楽の調べ。黄昏時に到っては尚更で、繰り返しては返す波打ち際に映える美しい女性らのシルエットとポルトガル語の嬌声に聞き入れば、このような美しい国がいつまでも美しいままであって欲しいと願わざるを得ません。

    時には途上国特有の時間の感覚やいい加減さに呆れることもありますが、ブラジルの人々の持つ南米特有の人の明るさが全てを吹き飛ばしてくれるのも事実です。

    グローバルにネットワークを持つ銀行が保有する情報力が我々の強さであると信じた仮説は、今、正しかったと考えております。そして東京・サンパウロと数万キロも離れたところに居ながらも、見えないものを共に信じあった仲間との友情、そして固い信念と熱い情熱に裏打ちされた地道な努力こそがこの仮説を立証できた理由と考えています。ブラジル三井住友銀行にとって地球温暖化防止という人類共通の課題に対する挑戦はようやく始まったばかりです。
    世界最大の祭典、リオデジャネイロのカーニバル。ブラジルの人々が持つ明るさとパワーが最高潮に達するイベントです。

2008年2月8日