京都メカニズム情報プラットフォーム
運営組織(OE・DOE)の現場から

運営組織(OE)の業務にたずさわって

中央青山サステナビリティ認証機構
GHG主任審査員 吉田麻友美

1.OEの業務とは

  1. OEの重い役割
    運営組織(OE)とは、「バリデーション」と「ベリフィケーション」というCDMにとって非常に重要な2つの機能を果たす機関とされています。バリデーションでは、CDMとしての要求事項に適合しているかという観点から審査を行い、適格なプロジェクトをCDMプロジェクトとしてCDM理事会に登録させるトリガーとなります。ベリフィケーションでは、CDMプロジェクトの一定期間におけるモニタリング結果を確認し、GHG削減量(CER)を検証し確定します。この検証結果にもとづきCERは発行されます。
    この仕事にたずさわってきて、よく、「CO2の排出削減につながるプロジェクトであれば地球温暖化防止に貢献するのだし、CDMとして認められるんじゃないの?」と聞かれます。これは、CDMになくてはならない「追加性」(当該プロジェクトがなかった場合に起り得たであろう状況と比較して追加的な削減量が見込まれること)の概念に関連することですが、そもそもCDMというのは、「京都議定書上のGHG排出削減目標を持たない国(ホスト国)で実施され、CERという削減クレジットが生み出され、それを排出削減目標を持つ先進国へ移転できるという仕組みなので、結果的に先進国の総排出枠の量が増大することになる。」ということを理解してもらうのがなかなか大変です。いつも、ひとことで分かってもらえるような簡単な説明がないものかと苦労しています。このような理由から、CDMには、「追加性」の実証や、ホスト国の「持続可能な開発」に寄与しなければならない等の厳しい要求事項が設けられているのです。
    これらの要求事項に対して適合しているか否かの判断を下すのがOEですので、OE機関は非常に重要であると同時にそれだけ肩の荷の重い役割を担っていると言えます。しかし、だからこそ地球温暖化防止や持続可能な開発に業務を通じて貢献するという志を高く掲げて業務に励んでいます。
  2. 2つの文化の融合
    私の感覚では、バリデーションはある基準への適合性を審査するという意味でISOマネジメントシステムの審査に近いものであり、ベリフィケーションは、削減量というデータの正確性を保証するという意味で財務監査に近いものであると認識しています。OEに対して求められる要求事項等を見ても、それらがISOマネジメントシステムの審査と財務監査の両方のアプローチの融合であることが分かります。
    このような背景から、この業界で活躍されていらっしゃる方々はこのどちらかのバックグラウンドをお持ちの方が多いようです。両者に共通する部分ももちろんありますが、重要とする概念や業務の進め方などで異なった部分もあり、当初は他の機関の方と話していて話がなかなかかみ合わず、歯がゆい思いをしたことも多々ありました。
    例えば、監査法人に所属する私は、ベリフィケーションを語る際にどうしても「重要性」や「不確実性」などの概念に言及してしまうのですが、ISO審査機関の方に上手く説明できずもどかしい思いをしたこともあります。
  3. OEに求められるもの
    上に述べたようにOEに課せられた役割は非常に重要ですので、どのような機関でも簡単にOEになれるのではなく、国連CDM理事会による非常に厳格な審査をパスする必要があります。審査の主なポイントは、OEとして十分機能できるような体制や人材が備わっているかという点であると理解しています。
    体制面については、CDMの成立やCERの発行のトリガーとなるというOEの担う機能の性質上、審査案件と「利害関係」がないことを保証する体制が必要となります。また、一言でCDMプロジェクトと言っても、再生可能エネルギー、省エネ、燃料転換、メタン回収などの様々な技術分野(セクトラルスコープ)があります。これらの技術分野の専門家を確保し、また、Learning by Doingのアプローチで進展しつづけるCDMを取り巻く環境を常にキャッチアップできる人材を確保し、それらの能力を維持向上させていくという非常にハードルの高い体制の整備が求められます。
    弊社、中央青山サステナビリティ認証機構を例にとると、セクトラルスコープの1から13まででOEの仮認定を受けていますが、各スコープの専門家が専任として所属しているわけではありません。弊社が設けた能力基準を満たした人材を登録しておく制度をもち、案件に応じてその道の専門家を登用するというシステムをとっています。また、バリデーション、ベリフィケーションには、技術やマネジメントシステムについての知識だけではなく、監査能力も必要となります。更に、途上国で審査業務を行うという性質上、異文化でのコミュニケーション能力や危機管理能力というのも非常に重要になります。
    バリデーション、ベリフィケーションには、ある分野に特化した専門的な知識が求められますので、必要な全ての能力やスキルをオールマイティーに備えている人材を見つけるのはなかなか困難だと言えます。いかに多彩で幅広い専門知識やバックグラウンドをもった人材プールを擁し、案件に応じてベストの人選を行えるような組織力を持っていることがOEとしての競争力でないかと思います。

2.現在のビジネスに携わることとなったきっかけ

監査法人という組織の中の環境監査部という部門に籍を置き、企業の健全な環境ディスクロージャーに貢献するため、企業の環境パフォーマンス情報やCO2排出量情報のベリフィケーション業務を実施していた私がOE業務に携わるきっかけとなったのはとても自然な流れでした。
COP7でCDMのルールが具体化してきてからは、「ベースラインとは」、「追加性とは」、から勉強し、2002年には経済産業省主催の「CDMバリデーター・ベリファイヤー養成コース」の第一期生として国内研修、海外研修に参加しました。同期生のほぼ全員が人生の大先輩でしたが、皆さん現在は私と同様にバリデーション、ベリフィケーションの第一線でご活躍されています。
それからは、方法論の承認プロセスが開始されたり、PDDのテンプレートが改定されたりと、まさにLearning by Doingで急速に進展していくCDM環境を夢中で追いかけているうちに、翌年からは講師として「CDMバリデーター・ベリファイヤー養成コース」に参加する立場になっていました。

3.「運営組織」の現場で感じる最近の変化

CDMプロセスの立ち上げ当初は、方法論の承認などに時間がかかり、なかなかCDMの登録件数は増えない状況が続きましたが、ここ2年くらいでその数は劇的に増加しました。昨年の10月にはCERの第一号も発行され、CDMプロセスは安定してきているかのように思えます。
その一方で、当初から懸念されていたOE機関としての保証責任は依然として明確でない状況が続いていると同時に、バリデーションの市場価格は2〜3年前に比べかなり下がっているようです。
昨年、環境省の委託を受け、EU-ETSの調査で欧州を訪問し、英国でのベリフィケーションの現状について調査してきました。そこで問題となっていたのが、以前から環境情報やマネジメントシステムの審査・認証を実施してきたいわゆる老舗機関以外の新興の機関が市場に参入してきた結果、ベリフィケーションの市場価格が下がり、また、ベリフィケーションの質の低下が懸念されているということでした。
OE機関については、国連の厳正な審査を通過しなければ認定を受けられないような仕組みになっていますので、いい加減なバリデーションやベリフィケーションが横行するということはないとは思います。とはいえ、本来、CDMプロセスにおいて非常に重要な役割を担うOE機関として、その任務を遂行するためには多岐にわたる分野に高い専門性を持った人材が必要となるのは当然であり、保証の責任やリスクを考えれば、そうそう安い金額で業務を提供できるはずもないと思います。
CDMの登録件数が増え、CERの発行実績も増えつつある今、Learning by Doingの時期を経て、OE機関による業務の品質についても、CDM理事会やNGOなどによる監視の目が強化されてくるのではないかと感じています。

2006年2月28日